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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)7894号 判決 1985年10月28日

原告

大山司

被告

小島政幸

主文

一  被告は、原告に対し、金八四万九八一三円及び内金七四万九八一三円に対する昭和五九年七月二〇日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを八分し、その一を原告の、その余を被告の、各負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一二一万九三二三円及び内金一一一万九三二三円に対する昭和五九年七月二〇日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五八年八月七日午後六時三四分ころ

(二) 場所 東京都渋谷区代々木三―八先路上

(三) 加害車両 普通乗用自動車(品川五八―一四五九)

右運転者 被告

(四) 被害車両 自動二輪車(品川二八三八九)

右運転者 原告

(五) 態様 加害車両と被害車両とが側面衝突した。

(右事故を以下「本件事故」という。)

2  被告の責任

(一) 運行供用者責任

被告は、自己のために加害車両を運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)第三条の規定に基づき、原告の後記人身損害を賠償すべき責任がある。

(二) 不法行為責任

本件事故は、原告が、被害車両を運転して代々木二丁目方面に向かつて第一車線を時速約四〇キロメートルで進行中、第二車線を同方向に進行していた加害車両が道路左側の駐車場に入ろうとして、突然被害車両の直前を第一車線に左折してきたため、原告が急制動の措置をとつたものの間にあわず、加害車両の左側後部に被害車両を衝突させて転倒したというものであつて、被告には、加害車両を左折させて第一車線に進入する際、左側を十分に注視すべき義務があるのに、これを怠つた過失があり、本件事故は、被告の右過失によつて発生したものであるから、被告には、民法第七〇九条の規定に基づき、原告の後記物的損害を賠償すべき責任がある。

3  原告の傷害と治療経過

原告は、本件事故により、四肢打撲・擦過挫創、頭胸打撲、頚捻挫の傷害を被り、医療法人社団芳寿会玉井病院に、昭和五八年八月七日から同月二三日まで一七日間入院し、同月二四日から同年一二月一四日まで通院(実通院日数一五日)して治療を受けた。

4  損害

(一) 受傷による損害

(1) 治療費 金七二万八二二五円

前記治療のため右金額を要したが、これについては自賠責保険により損害のてん補がなされた。

(2) 入院雑費 金一万七〇〇〇円

原告は、前記入院中、一日あたり金一〇〇〇円の雑費を支出した。

(3) 通院交通費 金四二三〇円

原告は、前記通院のため電車代金二七二〇円、タクシー代金一五一〇円を支出した。

(4) 入院通院慰藉料 金五〇万円

原告が本件事故により被つた傷害に対する慰藉料は金五〇万円が相当である。

(二) 車両等の損害

(1) 車両損害 金三四万二三四二円

被害車両の新車価格は金三九万九〇〇〇円であり、その登録日が昭和五八年二月五日で、走行距離が二〇一三キロメートルであることなどを考慮すると、その中古車市場における減価率は〇・八五八とするのが相当であるから、時価相当額は金三四万二三四二円となるところ、本件事故による被害車両の損傷は甚だしく、その修理見積額は約金三五万円であるから、これを全損として、右時価相当額が損害額となる。

(2) レッカー車代 金一万五〇〇〇円

原告は、被害車両を事故現場から引揚げるため右費用を支出した。

(3) 車両保管料 金六万九〇〇〇円

原告は、被害車両の昭和五八年八月九日から同年一〇月一六日までの六九日間の保管料として、一日あたり金一〇〇〇円を支出した。

(4) 代車料 金一〇万円

原告は、被害車両の代車を昭和五八年八月二八日から同年一〇月一六日までの五〇日間使用することを余儀なくされ、これに一日あたり金二〇〇〇円を支出した。

(三) 着衣等の損害

(1) ヘルメット等の損害 金三万七七五一円

本件事故により、原告のヘルメット(購入価格金一万八〇〇〇円)、ジャンパー(同金九八〇〇円)、靴(同金七二〇〇円)、手袋(同金九〇〇〇円)がいずれも全損したところ、これらは昭和五八年二月に購入したものであるから、その時価相当額は、減価率を〇・八五八として、ヘルメット金一万五四四四円、ジャンパー金八四〇八円(一円未満切捨)、靴金六一七七円(一円未満切捨)、手袋金七七二二円となる。

(2) 眼鏡代 金三万四〇〇〇円

原告は、本件事故により眼鏡を損傷され、新たに右金額で眼鏡を購入した。

(四) 弁護士費用 金一〇万円

原告は、本訴の提起と追行を弁護士である原告訴訟代理人に委任し、報酬として金一〇万円を支払う旨約した。

5  よつて、原告は、被告に対し、本件事故による損害賠償として、金一二一万九三二三円及び内弁護士費用を除く金一一一万九三二三円に対する訴状送達の日の翌日である昭和五九年七月二〇日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、事故発生場所の地番は否認し、その余は認める。地番は、三―四一である。

2(一)  同2の(一)の事実中、被告が自己のために加害車両を運行の用に供していた者であることは認めるが、責任は争う。

(二)  同2の(二)の事実中、事故の態様及び被告の過失は否認し、責任は争う。

3  同3の事実中、原告が受傷したことは認め、その余は否認する。

4(一)  同4の(一)の事実中、(1)の事実は認め、(2)ないし(4)の事実はいずれも否認する。

(二)  同4の(二)の事実はいずれも否認する。

(三)  同4の(三)の事実中、(1)の事実は否認し、(2)の事実は不知。

5  同5の主張は争う。

三  抗弁

1  免責

本件事故の状況は、次のとおりである。

被告は、本件事故現場の手前にある信号機のある交差点で赤信号のため一旦停止したのち青信号で発進左折して、本件事故のあつた道路に進入し、第一車線を進行していたところ、道路左側に駐車車両があつたため、第一車線と第二車線との中間付近に進路を変更し、同駐車車両の側方を約八〇センチメートルの間隔を開けて通過したのち、再び第一車線に進路を戻し、次いで道路左側の駐車場に進入すべく瞬時ハンドルを右に切つたのち左にハンドルを切つて左折しようとした際、歩道上に歩行者がいたため、加害車両を左斜めの位置で約三秒間停止させていたところへ、被害車両が後方から前方不注視、速度の出し過ぎにより衝突してきたものである。そして、被告は、制限速度を遵守して進行していたし、駐車場へ左折する手前約三八メートル付近で左折の合図を出し、そのころ後方を確認した際、被害車両が左後方約五五メートル付近を時速約四〇キロメートルで進行していて同車との間に余裕があるのを確認しているうえ、左折する手前約二一メートル付近から減速して制動燈を点燈させていたものである。したがつて、被告には本件事故について何ら過失がないし、本件事故は専ら原告の前方不注視、速度の出し過ぎの過失によつて発生したものである。また、原告には、前記交差点を赤信号を無視して通過してきた過失もある。さらに、加害車両には、構造上の欠陥も機能の障害もなかつた。

よつて、被告は、本件事故につき免責される。

2  本件事故の態様は、右のとおりであつて、原告には、前方不注視、速度の出し過ぎ等の過失があるから、過失相殺がなされるべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)の事実中、事故発生場所の地番を除く事実は、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二ないし第四号証によれば、右地番は三―四〇であることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  次に、被告の責任につき判断する。

1  被告が加害車両を自己の運用に供していた者であることは当事者間に争いがない。

そこで、免責の抗弁について判断するに、前掲甲第二ないし第四号証、成立に争いのない同第五ないし第七号証、第一〇、第二五、第二六号証、原告(第一、二回)、被告(後記措信しない部分を除く。)各本人の尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場道路は、車道幅員約一二・六〇メートル、片側二車線の平坦な直線の舗装道路で最高速度が時速四〇キロメートルに規制されていること、

(二)  被告は、事故現場の手前約一〇〇メートル付近の信号機のある交差点を左折して本件事故のあつた道路に進入し、第一車線を進行したのち、左側に駐車車両があつたため第二車線に進路を変更し、事故現場の約三〇メートル手前で左折の合図を出して減速しつつ進行したが、事故現場の数メートルないし十数メートル手前でルームミラーで左後方を見ただけで、左後方から来る車両はないものと軽信し、第二車線から、時速約八ないし一〇キロメートルの速度で道路左側にある駐車場へ左折しようとした際、歩道上に歩行者がいるのを認めて制動措置をとり、加害車両を左斜めの位置でほぼ停止させた時、加害車両の左後方から来た被害車両が加害車両の左側面に衝突したこと、

(三)  原告は、時速約五〇キロメートルで加害車両の左後方を進行中、同車が右前方約二三メートルの地点で左折するとともに左折の合図が出ているのをはじめて発見して急制動の措置をとつたものの、衝突を避けることができなかつたこと、

以上の事実が認められ、右認定に反する被告本人の供述部分は叙上認定に供した各証拠に照らしてたやすく措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右の事実によれば、被告には、本件事故現場道路の左側にある駐車場に入るべく左折する際、あらかじめ十分に道路左側に寄つたうえ、直接あるいはサイドミラーにより左後方の安全を十分に確認して進行すべき注意義務があるのに、これを怠つた過失があり、本件事故は、被告の右過失によつて発生したことが明らかである。

右のとおり、被告には過失がなかつたとは認められないから、免責の抗弁は理由がない。

したがつて、被告には、自賠法第三条の規定に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償すべき責任がある。

2  また、被告がその過失によつて本件事故を発生させたことは前示のとおりであるから、被告には、民法第七〇九条の規定に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償すべき責任がある。

3  ところで、前記認定事実によれば、原告には、本件事故の発生につき、制限速度を約一〇キロメートル超える速度で進行したうえ、加害車両の左折の合図その他の動静に対する注意が十分でなかつた過失があることが認められるから、本件事故による原告の損害について二割の過失相殺をするのが相当である。なお、原告が前示の信号機のある交差点を赤信号を無視して通過してきたことを認めるに足りる確実な証拠はない。

三  そこで、進んで原告の傷害と治療経過及び損害について判断する。

1  傷害と治療経過

成立に争いのない甲第一二ないし第一九号証及び原告本人尋問(第一回)の結果によれば、請求原因3(原告の傷害と治療経過)の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  損害

(一)  受傷による損害

(1) 治療費 金七二万八二二五円

前示治療のため右金額を要した事実は当事者間に争いがない。

(2) 入院雑費 金一万七〇〇〇円

前示入院日数及び原告本人尋問(第一回)の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告が前示入院中右金額の雑費を支出したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(3) 通院交通費 金四二三〇円

成立に争いのない甲第二〇号証の一ないし三及び原告本人尋問(第一回)の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、前記通院のための交通費として右金額を支出した事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(4) 入通院慰藉料 金五〇万円

前示の原告の傷害の部位・程度、入通院の日数等を総合すると、原告が本件事故によつて被つた精神的苦痛に対する慰藉料は、金五〇万円をもつて相当と認める。

(二)  車両等の損害

(1) 車両損害 金三四万二三四二円

成立に争いのない甲第二一号証及び原告本人の尋問(第一回)の結果によれば、被害車両は、新車価格が金三九万九〇〇〇円、登録日が昭和五八年二月五日、走行距離が二〇一三キロメートルであり、本件事故による損害の修理見積額が約金三五万円であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右の事実によれば、被害車両の時価は、中古車市場における減価率を〇・八五八として、金三四万二三四二円と認めるのが相当であり、右修理見積額と対比して、全損と認めるのが相当であるから、損害額は右時価額と同額となる。

(2) レッカー車代 金一万五〇〇〇円

成立に争いのない甲第二三号証及び原告本人の尋問(第一回)の結果によれば、原告は、被害車両の引揚げのため右金額を支出したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(3) 車両保管料 金六万九〇〇〇円

前掲甲第二三号証及び原告本人尋問(第一回)の結果によれば、原告は、被害車両の昭和五八年八月九日から同年一〇月一六日までの六九日間の保管料として一日あたり金一〇〇〇円を支出した事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(4) 代車料 金一〇万円

前掲甲第二三号証及び原告本人尋問(第一回)の結果によれば、原告は、被害車両の代車を昭和五八年八月二八日から同年一〇月一六日までの五〇日間使用することを余儀なくされ、その間、代車料として一日あたり金二〇〇〇円を支出した事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(三)  着衣等の損害

(1) ヘルメット等の損害 金三万七七五一円

前掲甲第二一号証、成立に争いのない甲第二二号証及び原告本人尋問(第一回)の結果によれば、原告着用のヘルメット(購入価格金一万八〇〇〇円)、ジャンパー(同金九八〇〇円)、靴(同金七二〇〇円)、手袋(同金九〇〇〇円)がいずれも全損したこと、これらはいずれも昭和五八年二月に購入したものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右の事実によれば、右ヘルメット等はいずれも本件事故時までの減価率を〇・八五八として、本件事故時における時価を、ヘルメット金一万五四四四円、ジャンパー金八四〇八円(一円未満切捨)、靴金六一七七円(一円未満切捨)、手袋金七七二二円と認めるのが相当であるから、これらの損害の合計額は金三万七七五一円となる。

(2) 眼鏡代 金三万四〇〇〇円

成立に争いのない甲第二四号証及び原告本人の尋問(第一回)の結果によれば、原告は、本件事故により眼鏡を損傷されたため、新たに右金額で眼鏡を購入し、同額の損害を被つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

3  過失相殺

以上の原告の損害は合計金一八四万七五四八円となるところ、前示の過失割合にしたがい過失相殺として二割を控除すると、金一四七万八〇三八円(一円未満切捨)となる。

4  損害のてん補

自賠責保険から、治療費金七二万八二二五円の損害のてん補がなされたことは、当事者間に争いがないから、これを控除すると、損害の残額は金七四万九八一三円となる。

5  弁護士費用 金一〇万円

原告本人尋問(第一回)の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告から損害額の任意の弁済を受けられないため、原告訴訟代理人に本訴の提起及び追行を委任し、その報酬として金一〇万円を支払う旨約したことが認められるところ、前記認容額、本件訴訟の難易、審理の経過等の事情を総合すると、右金一〇万円は、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

四  以上によれば、原告の被告に対する本件請求は、本件事故による損害賠償として、金八四万九八一三円及び内弁護士費用を除く金七四万九八一三円に対する本件事故の日ののちである昭和五九年七月二〇日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容し、その余は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林和明)

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